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SEOを専門会社に依頼すべき?自社運用との比較と判断基準

高田晃太郎
SEOを専門会社に依頼すべき?自社運用との比較と判断基準

統計が示す現実は明快です。BrightEdgeの分析ではオーガニック検索がWebトラフィックの約53%を占め¹、Backlinkoの大規模CTR調査では1位の平均CTRが31.7%に達します²。一方でAhrefsの研究では公開ページの約90.6%がGoogleからのトラフィックをほとんど得ていません³。つまり、勝者総取りの傾向が強まり、戦略と実行の質がROIを決定づけています。B2B/SaaSの文脈では獲得コスト(CAC)が上昇傾向にあることが各種レポートや公開事例で指摘され、SEOはCAC抑制の有力な選択肢になり得ます。ただし、効果が出るまでの8〜24週のタイムラグや、継続的な運用負荷をどう設計するかが成否を分けるのも事実です。なお、一般的な目安としては4〜12か月との見解もあります⁴。エンジニアリングリソース、ガバナンス、ナレッジ蓄積という技術経営の論点を外せない以上、SEOを専門会社に外注するか、インハウス(自社運用)で進めるかの選択は、単なるコスト比較ではなく組織設計の意思決定です。ここで有効なのが、検索意図に沿ったキーワード戦略(トピッククラスターやハブ/スポーク設計)を中核に据え、テンプレートと内部リンクでスケールさせるという原則です。

現実的な費用対効果とタイムライン

意思決定でまず気になるのは費用と時間軸です。国内のエンタープライズ向けSEO支援では、公開されている価格表や公募情報を踏まえた一般的なレンジとして、月額フィーが50〜300万円程度、要件が複雑な国際・大規模サイトでは300〜800万円に達することもあります。初期監査や情報設計のセットアップ費用は100〜300万円前後、コンテンツ制作は1本あたり3〜10万円が相場感として語られます。自社運用のコストは人件費と機会費用が中心で、専任のSEOリードで年収800〜1,200万円、コンテンツ編集で500〜800万円、さらにエンジニア工数として0.2〜0.5 FTEの継続確保が現実的なラインと認識されることが多いでしょう。ツール費用はAhrefs/SEMrush等で月5〜20万円程度に収まる一方、ログ解析やクローラの運用まで踏み込むと追加の管理コストが発生します。

タイムラインはサイトの規模と変更権限で大きく変わります。技術的負債が少なく、デプロイ頻度が高いプロダクトチームでは、クリティカルなテクニカルSEOの修正と情報設計の見直しにより、8〜12週で非ブランドのクリック増加が観測され始めることがあります。逆に複数部門の承認が必要で、テンプレート改修が四半期単位の大企業では、12〜24週を見込むのが妥当です。Core Web Vitalsの改善もレバレッジが高く、LCP2.5s以下⁵、CLS0.1以下⁶、INP200ms以下⁷の達成は、クローラビリティとUXの改善に寄与し得ます。ただし、ここはエンジニアリングの着手が遅れると即時性を失います。SEO専門会社(代理店・コンサル)への外注は短期で成熟したプロセスを持ち込みやすく、インハウスSEOは学習曲線の先に獲得単価が逓減しやすい複利効果を享受できるのが対照的です。

ROIの見方とブレークイーブン

ROIは単純化すると、増加したオーガニックセッションにCVR(コンバージョン率)とLTV(顧客生涯価値)を掛け、コストを引いた値で評価できます。例えば月間10万セッションのB2Bサイトで、非ブランド流入を+20%伸ばし、CVR1.5%、LTV30万円とすると、月当たりの追加売上寄与は900万円程度です。外注フィーが200万円、制作費が100万円、内製工数の機会費用が100万円であれば、月次の粗ROIは約2.5倍になります。もちろん実際にはリードクオリティや営業歩留まりが絡むため、ファネル全体のSLA(Service Level Agreement)設計と計測の観点が不可欠です。検索意図のズレが大きいキーワードで記事量産しても、パイプラインに効かなければ見かけの流入だけが増えます。このリスクは外注でも内製でも同じで、むしろ意思決定権とデータアクセス範囲がROIのブレを左右します。だからこそ、キーワード戦略では商用・情報・比較・ナビゲーショナルといったクエリタイプを切り分け、収益連動のランディングを設計することが重要です。

ケーススタディの輪郭

SaaSのミドルステージ企業で、Next.jsに移行済み、CMSはヘッドレス、デプロイは週次という環境では、外部のテクニカル監査と情報設計の再構成を短期でやり切り、以降は内製でコンテンツ運用を回すことで、四半期〜半年スパンでSQLや商談に対するオーガニックの寄与が目に見えて高まる、というシナリオは十分現実的です。逆に50万SKUのコマースで、ファセットナビのインデックス制御や在庫同期の都合からURLシグナルが毀損している場合、ログ解析とテンプレート改修、国別hreflang(地域/言語の関連付け)や言語別の正規化など専門性の高い対応が必要になり、外部のスプリント主導が効果を発揮しやすい局面があります。両例に共通するのは、実装権限を握るチームが首尾一貫した優先順位を持てている点です。

自社運用の強み・弱みと適性

インハウスの最大の強みは、プロダクト文脈の深さと実装への直結です。キーワードの言い換えや競合のSERP戦術よりも、情報設計とテンプレートの設計品質がスケールに効く以上、設計—実装—検証のリードタイムを短くできる組織は、それだけで優位に立ちます。自社のデータレイクやCDPにオーガニック行動データを統合し、SQLで購買相関を切り出して仮説検証する、といった動きは外部には依頼しにくい領域です。さらにナレッジが組織に残るため、採用ブランドや社内育成の観点でも複利が働きます。

弱みは立ち上がりの遅さと属人化のリスクです。SEOリードの採用難度は高く、キーワード調査、情報設計、テクニカル、コンテンツ運用、アナリティクスの全領域をカバーできる人材は稀少です。結果として、初期の仮説精度が低いまま記事を量産し、検証のない運用疲労に陥ることがあります。レビュー体制がないと、E-E-A-T(経験・専門性・権威性・信頼性)に資する一次情報の品質や、内部リンクの意図、スキーマの整合がばらつき、結果の平準化に時間がかかります。さらにエンジニアリング側のバックログに常時食い込ませる政治力がなければ、重要な技術改善が後ろ倒しになります。

適性は経営の時間感覚と事業のモートの置き方に依存します。SEOをコア能力として内製したいか、あるいは短中期で成長をブーストしてから別の獲得チャネルに重心移動するのか。B2Bで深い専門性の一次情報を内側に多く持つなら、編集と監修を内製化し、テクニカルとオペレーションの標準化だけ外部に助けを求めるハイブリッドが理にかないます。逆にコンテンツの差別化が困難で、テンプレートと内部リンクの設計が勝敗を分けるコモディティ領域では、実装速度と検証数で押し切る体制構築が鍵であり、外部の成熟プロセスを短期導入する価値は高まります。

専門会社に依頼する価値とリスク

外注の価値は、経験曲線のショートカットと、視界の広さです。数十〜数百のサイトで累積したパターン認識は、技術監査の網羅性や、類似SERPでの勝ち筋の抽出に効きます。ログ解析を通じたクローラビリティの改善や、JavaScriptレンダリングの負債解消、国際サイトのhreflang運用など、希少な専門性を短期間で投入できるのも外注ならではです。また、四半期ベースでのSLO(Service Level Objective)設計や、編集ガイドライン、構造化データのテンプレート設計など、運用の型が持ち込まれること自体が、社内のベースラインを引き上げます。

同時に、依存と情報非対称のリスクを否認できません。提案が成果物ベースに偏ると、検索意図と収益連動の検証設計が曖昧なままレポートだけが積み上がることがあります。成果報酬モデルは一見合理的ですが、短期的な非ブランド流入の最大化に誘因が働き、LTVの高いロングテールや、指名検索の増大といった本質的な価値が軽視されかねません。実装権限を持たない代理店が推奨を出すだけでは、社内開発のバックログに負ける局面も多く、結果として「分かったけれど動けない」状態が続くリスクを孕みます。

このリスクに対処するには、契約段階でガバナンスを設計することが重要です。四半期ごとの仮説と検証計画、対象キーワード群のビジネス貢献仮説、実装に必要な社内工数の見積もり、そして失敗時のピボット条件を明文化します。アクセス権とデータポリシーも予め定義し、GSCや分析データへの適切なアクセス、リポジトリへの閲覧権限、変更提案のレビューフローまで合意しておくと、実装遅延を減らせます。さらに、ドキュメント納品を必須にし、テンプレートやスキーマの変更理由、計測設計、内部リンクの方針が社内に残るようにすると、依存度が下がります。

技術領域での期待値設定

テクニカルSEOは、もはやメタタグの話ではありません。SSR/SSG戦略(サーバーサイドレンダリング/静的サイト生成)、エッジキャッシュのTTL(Time To Live)、画像最適化とフォントのプリロード、レンダリングの優先度、サイトマップの分割、正規化と重複排除、ログに基づくクロール効率の改善まで含みます。ここでの成果は計測可能で、インデックス対象URLの健全性、非200系レスポンスの削減、レンダリング完了までのタイムライン短縮などで確認できます。専門会社に依頼するなら、このレイヤーの成果を明確にKPI化し、Core Web Vitalsの合格率や、重要テンプレートのLCP/INP改善量、クロールあたりの有効インデックス化率の向上といった指標で進捗を見るのが健全です。

判断フレームとハイブリッド運用

意思決定は、複雑性と緊急度、そしてコア能力化の意志の三軸で整理できます。複雑性が高く、国際・多言語や巨大なファセット構造、JavaScript依存レンダリングを抱える場合は、短期で外部の専門性を導入し、社内はプロダクト側の実装を確実に進める体制に集中するのが合理的です。緊急度が高く、四半期内に管掌KPIへの寄与を示す必要があるなら、成熟した外部プロセスとテンプレートで初速を作り、その間に内製チームの採用と育成を進める二段構えを選びます。逆に、ビジネスの差別化が一次情報の深さやプロダクト知識に強く依存し、実装の裁量が手元にあるなら、インハウス中心で進めて成果を複利化する方が中長期のROIは高くなります。

ハイブリッドは現実的な解です。社内にSEOプロダクトオーナーを置き、バックログの優先順位付けとKPI管理を担わせます。専門会社は監査、情報設計、テンプレート設計、トレーニングをスプリントで提供し、コンテンツ制作はガイドラインとレビュー体制だけ外部に置く、あるいは逆に一次情報の執筆は内製で、編集・構成と公開オペレーションのみ外部化する、といった役割分担が機能します。評価は四半期で、非ブランドクリックの増加、指名検索の増加、SQLや受注への寄与、Core Web Vitalsの合格率、インデックスカバレッジの健全性といった複数の指標のバスケットで行い、単一指標への過度な最適化を避けます。

今日から使える自己診断の問い

自社でキーワード群のTAM(到達可能市場規模)を定量化し、検索意図別にトピッククラスターと情報設計へ落とし込めているか。テンプレート単位で内部リンクの意図とスキーマ実装が設計され、デプロイサイクルに乗せられているか。GSC、ログ、行動データを結合し、仮説と検証を二週〜月次で回せているか。編集ガイドラインとファクトチェックのSLAがあり、一次情報の質が担保されているか。これらに胸を張って「はい」と言えるなら、内製の伸び代は大きいはずです。どれかが詰まっているなら、そこを外部の型で素早く補うのが合理的です。

まとめ:スピードと学習の両立を設計に落とす

決め手は、短期の速度と中長期の学習を両立させる設計にあります。外注は初速と網羅性に強く、インハウスは文脈理解と複利に強い。どちらが正しいかではなく、どの順序で組み合わせれば自社のKPIに最短で効くかを考えるのがCTOの仕事です。四半期で示すべき成果が明確なら、専門会社の型を導入して障害を除去しつつ、同時にナレッジを社内に移植していきましょう。逆に時間を味方にできるなら、内製の仕組みを磨き、データと実装を一体で回す体質を作ることが将来の獲得単価を下げます。

まずは現在のボトルネックを言語化し、誰が何をどの順で解くのかを一枚のドキュメントに落とすところから始めてみてください。判断は二者択一ではなく設計の問題です。あなたの組織にとって最も合理的な速度と学習のバランスはどこにあるのか——その答えは、次の四半期のロードマップの中にあります。

参考文献

  1. Organic search responsible for 53% of all site traffic; paid 15% [study]. Search Engine Land. https://searchengineland.com/organic-search-responsible-for-53-of-all-site-traffic-paid-15-study-322298#:~:text=2014%2C%20organic%20search%20delivered%2051,with%20paid%20providing%20roughly%2015
  2. The #1 result in Google gets 31.7% of clicks, new study by Backlinko and ClickFlow finds. PR Newswire. https://www.prnewswire.com/news-releases/the-1-result-in-google-gets-31-7-of-clicks-new-study-by-backlinko-and-clickflow-finds-300907922.html#:~:text=CHEYENNE%2C%20Wyo,study%20by%20ClickFlow%20and%20Backlinko
  3. Ahrefs. Search traffic study. https://ahrefs.com/blog/search-traffic-study//#:~:text=96.55,one%20and%20ten%20monthly%20visits
  4. Semrush. How long does SEO take? https://www.semrush.com/blog/how-long-does-seo-take/#:~:text=It%20typically%20takes%204,according%20to%20a%20Google%20video
  5. web.dev. Largest Contentful Paint (LCP). https://web.dev/articles/lcp#:~:text=To%20provide%20a%20good%20user,ensure%20you%27re%20hitting%20this%20target
  6. web.dev. Optimize Cumulative Layout Shift (CLS). https://web.dev/articles/optimize-cls/#:~:text=To%20provide%20a%20good%20user,of%20page%20visits
  7. web.dev. Interaction to Next Paint (INP). https://web.dev/inp/#:~:text=,a%20page%20has%20poor%20responsiveness