プログラミング不要!1日で作れる業務アプリ10選
Gartnerの予測では、2025年までに新規業務アプリの大半がローコード/ノーコード技術で構築されると広く報告されています(業界メディア経由の要約による紹介)⁴。さらに、ForresterのTEI分析(委託調査)では、ローコード活用によりアプリ提供までの時間が大幅に短縮され、従来比で数倍のスピードに到達し得ると示されています²。国内に目を向けると、経済産業省が公表したIT人材需給の推計は2030年に最大約79万人の不足見込みとされ(報道要約)³、開発需要の増大と人材不足が同時進行であるのは確かです。こうした文脈で、バックログ圧縮の実践解としてノーコード/ローコードを戦略的に取り込む動きは加速しています⁴。一方で、拙速な拡張はシャドーIT化やガバナンス不全を招きがちです。CTOやエンジニアリングリーダーが主導するなら、まずは1日(実働6〜8時間)で構築・検証可能で、セキュリティと拡張性の要点を押さえたユースケースから着手するのが合理的です。本稿では「ノーコード 業務アプリ」「ローコード 1日構築」「社内アプリ 作り方」といった観点で、実装と運用の勘所を具体化します。
前提と選定基準:1日構築の実務ラインを明確にする
本稿の「1日」は、要件定義の簡易化、共通部品の再利用、既存SaaSの認証とデータ連携を前提とした6〜8時間の実装枠を指します。対象はデータ入力、承認、通知、検索、集計といった反復業務で、在庫引当や課金処理のような厳密なトランザクション(ACID:原子性・一貫性・分離性・耐久性)要件には踏み込みません。ツールはMicrosoft Power Apps/Power Automate、Google AppSheet、Airtable/Interfaces、Retool、Appsmith、Glide、Notion+自動化(Zapier/Make)など、企業利用の実績とSSO(Single Sign-On:シングルサインオン)対応、監査ログ、権限管理(RBAC:ロールベースアクセス制御)、データ所在地の明示性を備えたものを推奨します。公開調査や事例では、業務部門が主体で設計しエンジニアがガードレールを敷く二人三脚の体制が、初期の失敗率低減に有効である傾向が示唆されています⁴。そこで本稿では、データモデルが単純で、既存SaaSと疎結合で連携でき、ロールベースのアクセス制御が容易なアプリのみを厳選しました(時間はあくまで目安で、環境・要件により前後します)。
1日で作れる業務アプリ10選:時間・連携・ツールの目安
経費精算ワークフローは、領収書画像の添付、金額・科目の入力、上長承認、会計SaaSへの連携までを1つの画面で完結させます。構築目安は180〜240分で、Power AppsとPower Automate、あるいはAirtableとMakeの組み合わせが現実的です。科目マスタ、申請、承認履歴の3テーブルで始め、承認ルールは金額閾値とプロジェクトタグの2条件に絞ると安定します。画像はSaaSのストレージに集約し、PII(個人を特定できる情報)は暗号化保管を徹底します。
稟議・承認フローは、案件名、目的、投資額、添付、決裁ルート、コメントを揃えた標準フォームを用意し、段階承認と差戻しをサポートします。構築目安は150〜210分です。Retoolでテーブルと承認UIを用意し、SlackやTeamsへ可視化通知を出すと運用が定着します。監査ログを必ず有効化し、変更履歴は不可逆に保持します。
勤怠・休暇申請は、申請タイプ、日付帯、理由、代替勤務の有無を入力し、カレンダーに自動反映させます。構築目安は120〜180分で、AppSheetやGlideがモバイル同時対応に向きます。休日ルールと有給残数はマスタから計算し、残数を超える申請はフロントでバリデーションします。人事SaaSへの書き戻しはキューイングし、失敗時の再送を設けます。
IT資産台帳・貸出管理は、デバイスID、所在、割当ユーザー、保証期限、貸出履歴を管理します。構築目安は180〜240分で、Airtableのスキーマ定義とRetoolの管理UIが扱いやすい構成です。棚卸しはQRコードで読み取り、更新はロール制限をかけ、削除は非推奨として論理削除に統一します。
**CRMライト(リードトラッカー)**は、会社、担当、ステータス、次アクション期日、メモを中心に、重いSFA導入前の暫定運用を可能にします。構築目安は150〜210分で、Notionデータベースとボタン連携、またはAirtable Interfacesで十分です。重複検知はメールと電話番号のハッシュ照合を使い、外部公開フォームからの流入はreCAPTCHAでスパムを抑制します。
**ヘルプデスク(社内チケット)**は、カテゴリ、優先度、SLA目安、担当、コメントスレッド、添付を持ち、問い合わせからクローズまでを単純化します。構築目安は180〜240分で、AppsmithやRetoolがよく、通知はTeamsのチャネル別に流します。SLA(Service Level Agreement)の計測は作成から最初の担当アサイン、クローズまでの三つのメトリクスを保持すると改善点が見えます。
入社オンボーディングは、役割別チェックリスト、アカウント発行、備品手配、教育コンテンツの進捗をひとまとめにします。構築目安は120〜180分で、Airtableと自動化でアサイン通知と期限リマインドを回します。各タスクはオーナーと期日の両方が未入力では保存不可とし、責任の所在を明確化します。
現場点検・報告フォームは、位置情報、写真、選択式のチェック、自由記述をモバイルから入力します。構築目安は90〜150分で、GlideやAppSheetがGPSとカメラの扱いに強いです。通信不安定な環境に備えオフライン保存を有効化し、同期待ちのデータは重複送信防止のためクライアント側でUUID(一意識別子)を持たせます。
KPIダッシュボードは、営業、サポート、プロダクトの主要指標を日次で可視化します。構築目安は120〜180分です。データ元はBigQueryやスプレッドシート、SaaS APIからのスナップショットに統一し、集計ジョブは1日4回のバッチで十分です。アラートは閾値と変化率の二系統を用意するとノイズが減ります。
FAQ/ナレッジ内製ポータルは、検索、タグ、閲覧権限、更新履歴を備えたライトCMSとして運用します。構築目安は90〜150分で、Notion公開と社内SSO、あるいはAirtable+静的サイト生成の構成が簡潔です。更新フローにレビュー者を必須化し、古い記事に自動ラベルを付けて定期棚卸しを促します。
セキュリティとガバナンス:スピードと統制の両立
ノーコード/ローコードは瞬発力が魅力ですが、統制なき増殖は後から高くつきます。まずアイデンティティを統一し、SSOと条件付きアクセスを前提にします。次に権限はRBACで最小権限を徹底し、データは分類を付与して機密区分に応じた保護レベルを定めます。監査ログはプラットフォーム側のイベントに加え、業務データの重要操作をアプリ側でも記録して二重化します。データ所在地と暗号化方式は明文化し、PIIや決裁情報は転送時と保存時の双方で暗号化を義務付けます。公開事例でも、ガードレールを事前に用意しテンプレート化して展開した場合、シャドーITリスクの軽減と承認リードタイムの短縮に寄与する傾向が示されています²⁴。実務ではテンプレート群、命名規則、ライフサイクル(試作、検証、本番、廃止)、責任分界、バックアップと復旧手順までを1枚の標準にまとめ、全社門前払いを避けつつ予防線を張るのが肝要です。
ROIと導入設計:24時間で成果を可視化する
費用対効果は時間短縮の換算が最も明確です。例えば経費精算ワークフローで、1件あたりの処理時間が15分から5分に短縮し、月間500件を処理する場合、月70〜90時間の削減が見込めます。人件費5,000円/時間とすると月35万〜45万円の価値で、プラットフォーム費用が月10万円でも投資回収は1か月に満たない計算です。Forresterの報告(委託調査)と実務の体感は整合しており、標準化と自動化の幅が広がるほど効果は累積します²。導入は短距離走の連続が適しており、最初の48時間でユースケースを選び、6〜8時間でプロトタイプを作成し、同日に実ユーザー10人規模の操作テストを実施します。残りの時間を権限、監査、例外処理、通知の磨き込みに充て、翌営業日から限定本番に移すのが成功確率を高めます。障害時の運用を軽視しないために、失敗時リトライ、メッセージのデッドレター、例外通知のサマリーレポート、週次の運用レビューの4点をセットで整備します。全体ロードマップは四半期で3〜5本の小粒案件を回し、学習したパターンをテンプレートへ還元すると、二周目以降の構築時間は30〜50%短縮されます。
まとめ:小さく早く作り、学習を資産化する
人手不足と需要過多の現場では、ノーコード/ローコードは代替ではなく補完の戦略です。今日紹介した10のアプリはいずれも1日で手応えのある価値を示し得る領域で、成功の鍵は要件を絞り、権限と監査を最初から組み込み、翌日から実ユーザーに触ってもらうことにあります。まずは自社のバックログを眺め、仕様が固まらずに寝かされている反復業務を一つ選んでみてください。6〜8時間を確保し、ここで述べた前提とガードレールをなぞりながら形にすれば、翌週の定例で具体的な数字と画面を提示できます。スピードは品質の敵ではなく、学習の速度そのものです。次の1日が、恒常的な開発生産性を底上げする起点になるはずです。
参考文献
- Gartner. Press Release: Gartner Forecasts Worldwide Low-Code Development Technologies Market to Grow 23% in 2021. https://www.gartner.com/en/newsroom/press-releases/2021-02-15-gartner-forecasts-worldwide-low-code-development-technologies-market-to-grow-23-percent-in-2021
- Forrester. The Total Economic Impact of Microsoft Power Apps (commissioned study). https://tei.forrester.com/go/microsoft/powerappstei/
- 日刊工業新聞. 経産省「IT人材需給の推計」—2030年に最大約79万人の不足見込みを公表(報道記事). https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00388679
- Computerworld. Low-code development is on the rise as businesses look to speed app delivery. https://www.computerworld.com/article/1616390