Article

エネルギーコストを考慮したIT機器選定法

高田晃太郎
エネルギーコストを考慮したIT機器選定法

国際エネルギー機関(IEA)の分析では、近年のデータセンターの電力需要は世界全体で約415TWh/年(2024年推定で世界の電力需要の約1.5%)に達し、需要増の主因にAIと動画配信が挙げられています¹²。さらにUptime Instituteの調査では、直近の平均PUEが1.58付近で横ばいという結果が示され、IT機器の消費電力に対して相応の設備ロスが乗る現実が続いています³。電力単価が上昇傾向にある日本国内では、1kWhあたり30円を前提に試算する企業が増え、電気代はもはや“外部条件”ではなく、IT機器選定で動かせる主要コストになりました。調達レビューでは価格表と消費電力(アイドル/平均/ピーク)を同じ行に並べ、負荷プロファイルと施設のPUE(Power Usage Effectiveness:設備効率指標)を掛け合わせて最初の見積もりの段階で可視化することを推奨します。目先の取得価格だけでなく、稼働年数全体の現金流出を見通す一手が、サーバやネットワーク機器の更新単位で数百万円規模の差につながります。

TCOを数式に落とす:電力×時間×単価×PUE

議論を抽象論で終わらせないために、まず式に落とし込みます。年間の電気料金は、IT機器が実際に消費する平均電力(kW)に稼働時間(h/年)と電力量単価(円/kWh)、そして施設側の非IT負荷を反映するPUE(施設全体の総電力/IT機器電力)を掛けた値です。加えて電源装置(PSU:Power Supply Unit)の変換効率がIT負荷に前掛けで効く点を忘れてはいけません。すなわち、年間電気料金={IT平均電力(kW)/PSU効率}×PUE×稼働時間(h)×単価(円/kWh)となります。例えばデュアルソケットの汎用サーバで平均IT負荷が0.3kW、PSU効率が94%(80 PLUS Platinum相当⁵)、施設PUEが1.5、24時間×365日、単価が30円/kWhであれば、入力電力は0.3/0.94=約0.319kW、PUE考慮後で約0.479kW、年間電力量は0.479×8,760=約4,198kWh、電気代は約125,940円/年になります。PSUをTitanium相当の96%に上げるだけでも⁴、入力電力は0.3/0.96=0.3125kWに下がり、同条件で年間約4,107kWh、約123,210円/年まで低減します。差額は1台あたり年2,730円と小さく見えますが、ラック全体、3〜5年、さらにPUEが高い環境ほど差は積み上がります。

ここに性能の概念を重ねます。SPECpowerやMLPerf Powerのようなベンチマークは、単純なワット数ではなく仕事量あたりの消費電力(ワットあたり性能)を示す点が有用です⁶。1台あたりのスループットが30%向上し、平均CPU利用率を同等に保てるなら、必要台数を減らす、あるいはコア数と周波数を抑えた設定で同一スループットを維持する選択肢が開けます。電力は周波数にほぼ線形、電圧に二乗で効くため、ターボ上限を抑えたプロファイルがワットあたり性能を押し上げる局面は少なくありません。重要なのは、ワットを削ることが目的ではなく、ワットあたりの成果を最大化することだという視点です。

施設側の係数も強力です。PUEはITで1W削ると全体でPUE倍の節約になる乗数です³。コロケーション選定時にPUE1.4と1.7の見積もりで迷うなら、IT負荷が100kWの現場では後者が年間でおよそ26万kWhの差(30円/kWhなら約780万円/年)になると考えると意思決定の重みが分かります。DC移設が現実的でない場合でも、ラック内のエアフロー整流、吸排気の混合防止、冷却温度の適正化といった運用の改善で実効PUEに近い係数を引き下げられる余地があります。

負荷に比例する電力:アイドルの重みを測る

多くのサーバはアイドルでも数十ワットから100ワット以上を消費します。OSと仮想化層が安定した後に30分スパンで平均を取り、日中ピーク、夜間アイドル、バックアップ時間帯といった負荷プロファイルを把握すると、単純なTDPやカタログ値では見えない削減機会が見つかります。C-State(CPUアイドル時の省電力状態)やP-State(CPUの周波数/電圧の組み合わせ)の有効化、デバイスの省電力機能(PCIe ASPM:リンク省電力、NICのEEE:Energy Efficient Ethernetなど)の確認、ファームウェアの電力制御ポリシーの見直しは、アイドル〜中間負荷域の“底”を下げます。実測に勝るものはありません。PDUのメータリング、BMC(ベースボード管理コントローラ)経由のRedfish Telemetry(サーバ管理API)、あるいは短期的にインライン電力計を挟む方法で、選定前のPoC段階からワットを記録し、その値で見積もりを引き直すのが堅実です。

PSUと電源経路:効率は連鎖する

電源は壁コンセントからチップに至るまで階層的に変換が続きます。80 PLUSのクラス(電源効率の認証)、冗長PSUの高効率モード、電源装置の定格に対してどの負荷域で運用するかが総合効率を左右します。PSUは40〜60%付近で最高効率を出す設計が多く、常時20%負荷で運用するより、装置の統合と電源容量の適正化で効率の“山”に寄せた方が損失は小さくなります。UPSやPDUの変換ロス、配電の二重化に伴う損失も積み上がるため、電源経路全体での効率を併せて確認すると、カタログ値にはない差が見えてきます。

ワークロード別の選定:CPU、GPU、ネットワーク、ストレージ

トランザクション処理やWebフロントエンドのようなスループット重視のワークロードでは、最新世代への更新が最も単純な省エネ策になります。プロセスの微細化とマイクロアーキテクチャの更新により、同一電力での性能が向上するためです。ARM系CPU(例:クラウドのGraviton系)などの選択肢は、x86に対してワットあたり性能やコストで優位なケースが多く、アプリケーション互換性が担保できるなら検討に値します。電力はコア数とクロックに強く依存するため、無闇にハイコア高周波数を選ぶのではなく、目標スループットに必要なコア数を見積もり、残りは周波数を抑える構成が実務的です。

AI推論や学習の領域では、GPU世代の飛び石が電力を塗り替えます。たとえば同一ジョブを旧世代より新世代のGPUで走らせると、時間短縮と電力量削減が同時に進みます。ジョブ単位のエネルギーは消費電力×実行時間で決まるため、時間を短くすること自体がエネルギー削減につながります。ミニバッチの調整、混合精度の活用、アクティブなコア数の最適化は、装置選定と同じくらい効きます。推論では低精度カーネルに強いアクセラレータやニューラルエンジン搭載の選択が、同一SLAでの消費電力を一段引き下げます⁷。

ネットワークは帯域あたりの電力を見ます。10Gから25G、40G、100Gと上げるとポート当たりの消費電力は上がりますが、装置数の削減や集約設計で総ワットは下げられます。電力の大半が固定費に近い機器では、集約して高効率装置で処理した方が効率が上がるのが通例です。EEE(Energy Efficient Ethernet)が有効になるトラフィック特性かどうかも評価対象です。

ストレージはアクセスパターンで決めます。HDDは1台あたり7〜10Wの常時消費があり、容量効率は高いものの台数が効率に直結します。NVMe SSDは1台あたりの消費が3〜8W程度でもIOPSとレイテンシが桁違いに高く、アプリケーション全体で見るとノード数の削減やCPUのスリープ時間増加により、システムトータルの電力量を下げる結果になることがしばしばあります。アーカイブは高密度HDDでスピンドルを物理的に止める設計、ホットデータはNVMeで台数削減という二層化は、コストと電力の折衷点を作りやすいアプローチです。

エッジとオフィス:見逃されがちな常時通電

デスクトップからノートへの移行は即効性のある対策です。一般的な開発用デスクトップが65〜125W帯で推移するのに対し、モバイル向けCPUのノートは15〜28Wで同じ作業が可能です。モニタは27インチで25〜40Wが目安であり、輝度と自動画面オフの設定だけでも体感できる差が出ます。無線APやスイッチなど常時通電機器は資産台帳で所在を明確にし、夜間の省電力モードやPoEスケジューリングを有効化します。Wake-on-LANとメンテナンスウィンドウの整備は、電源断と運用の両立に不可欠です。

RFPに組み込む:仕様で省エネを担保する

RFPや見積依頼段階でエネルギー要件を書面化すると、後工程の調整コストが消えます。必ず欲しいのは三つの数字、すなわちアイドル、50%、100%の実測電力です。可能であればSPECpowerなど第三者指標と測定条件を併記してもらいます⁶。PSUの80 PLUSクラスと効率曲線、冗長構成時の高効率モードの有無、BMCからの電力テレメトリ、BIOSでのC-State/P-State制御、NICのEEEやPCIe ASPMなど省電力機能の項目は、事前に有無を明記します。さらに、パワーキャッピング(装置の最大消費電力を設定値で制限)機能が使えるかどうかはラックのデマンド管理に直結します。契約電力に連動する需要家料金を採用している場合、ピークを5kW抑制するだけで月額1.5千円/kWの想定なら年間9万円の固定費削減になります。こうした制御機能は“あれば使う”ではなく、“使う前提で選ぶ”姿勢が要点です。

環境側の係数も発注仕様に落とし込みます。コロケーションでは目標PUEのレンジ、ラックあたりの最大供給電力と冷却方式、温湿度の運用レンジ、空調の制御方式など、効率に効く条件を先に縛っておくのが合理的です。調達審査は価格、性能、保守に加えて、エネルギーTCOという第四の評価軸を入れ、四角形の面積で総合点を見る、そんなイメージで運用するとブレにくくなります。

ケーススタディ:3年で元が取れるか

具体例で考えます。候補Aは本体価格が安いが平均IT負荷が0.5kW、候補Bは本体が25万円高いが平均IT負荷が0.3kWとします。PSU効率は両者96%、PUEは1.5、電力単価30円/kWh、24/365で試算します。Aの入力電力は0.5/0.96=0.521kW、PUE込みで0.782kW、年間電力量は約6,855kWh、電気代は約205,650円/年です。Bは0.3/0.96=0.3125kW、PUE込みで0.469kW、年間電力量は約4,107kWh、約123,210円/年となります。差額は年間82,440円、3年で247,320円です。Bの本体価格差25万円は3年でほぼ相殺され、4年目以降はBが優位になります。さらにBのスループットがA比で10〜20%高いなら、台数削減やライセンスコスト削減が二重に効いて、回収は一段と早まります。逆に、電力単価が低い、PUEが1.2程度で設備効率が高い、あるいは利用率が低く平均負荷が想定より小さいといった条件では、回収が延びる可能性があります。だからこそ、自社条件での実測と自社単価での再計算が必要です。

同じ考え方はストレージにも適用できます。例えばアーカイブ用に近年の高密度HDDを60台搭載した筐体がアイドルで約500〜600Wを消費する場合、ナイトリーのバッチ処理を昼間に移し、夜間はスピンドルを止める運用を導入すると、1日あたり数kWh単位の削減が期待できます。単価が30円/kWhなら、1台で年間数万円、ラック単位では二桁万円の差になります。

クラウド利用時の“見えない電力”を扱う

クラウドでは電気代が直接の請求項目に現れませんが、インスタンスタイプ、世代、リージョンの選び方で電力起因のコストを間接的に動かせます。最新世代への切替、ARM系の選択、メモリとストレージの過剰割当の是正、スケールアウトよりスケールアップの見直し、そしてアイドル時の停止は、すべて電力消費の削減に向かう選択です。カーボン指標を公開するクラウドでは、リージョンの時間別カーボン強度を見ながら、バッチ処理や学習ジョブの時間帯をずらす設計も現実解です。オンプレと同様に、1ジョブあたりの実行時間短縮が結果として消費電力を下げる点を忘れないでください。

測定、可視化、運用:仕組みで削減を持続させる

導入後の省エネは、仕組み化できるかどうかで決まります。まず基準値を決め、月次で装置、ラック、サイトの三層に分けて電力量とピーク電力を記録します。ダッシュボードは金額で表示するのが効果的です。kWhに単価とPUEを掛け、“今月いくら使ったか、何に使ったか”を誰が見ても分かる表現に変換します。ピーク電力の平準化は固定費の抑制に効きます。需要家料金のある契約なら、パワーキャップやジョブのスケジューリングでピークを抑え、契約電力の引き下げを狙います。ファームウェア更新やOSパッチで省電力機能が変わることもあるため、更新前後で短時間のA/B測定を行い、悪化があれば設定を巻き戻す手順を用意しておきます。

最後に、人の運用を軽くする工夫です。調達段階の仕様書テンプレートにエネルギー項目をひな形として埋め込み、PoCチェックリストに実測手順を固定化します。現場は仕様に従うだけで省エネが担保される状態を目指します。エネルギーは“誰かの善意”に頼ると持続しません。数式、仕様、計測、ダッシュボードという四つのレールに乗せて、淡々と回る仕組みにしてしまいましょう。

まとめ:電気代は意思決定で変えられる

電気代は外部環境ではなく、選定と運用で動かせる内生変数です。PUEやPSU効率を含んだ数式で見積もりを作り、ワットあたり性能で機種を絞り、RFPにエネルギー要件を書く。導入後は測定と可視化で運用を継続改善する。この一連の流れをチームの標準にしてしまえば、3年で数百万円規模の差は珍しくありません。まずは直近で更新予定のサーバやネットワーク機器から、アイドル、50%、100%の実測を取り、あなたの単価とPUEで自社の数字に引き直してみてください。どの条件なら高効率モデルのプレミアムを回収できるのか、どの構成なら台数を減らせるのか、具体的な問いが見えてきます。次の調達レビューで、価格表の右隣に“年間電気代”の列を追加する。それが、IT機器選定におけるエネルギーコスト最適化を味方に付ける最初の一歩です。

参考文献

  1. 日立総合計画研究所. データセンター需要拡大と電力需給の課題(IEA 2024推定415TWh, 世界需要の約1.5%)。https://www.hitachi-hri.co.jp/research/contribution/vol20_01_0616_4.html
  2. 日立総合計画研究所. 動画配信・オンライン動画の拡大とデータセンター需要増の関係。https://www.hitachi-hri.co.jp/research/contribution/vol20_01_0616_4.html#:~:text=%E5%8A%A0%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%80%82Netflix%E3%82%84YouTube%E3%80%81TikTok%E3%81%AE%E3%82%88%E3%81%86%E3%81%AA%E5%8B%95%E7%94%BB%E3%83%A1%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%A2
  3. Uptime Institute. Large data centers are mostly more efficient; industry average PUE ≈1.58. https://journal.uptimeinstitute.com/large-data-centers-are-mostly-more-efficient-analysis-confirms/#:~:text=Uptime%E2%80%99s%20data%20shows%20that%20industry,58
  4. Bel Fuse. 80 PLUS: Why you need Titanium power supplies in your data center(Titanium効率の概要)。https://www.belfuse.com/resource-library/tech-paper/80-plus-why-you-need-titanium-power-supplies-in-your-data-center
  5. Bel Fuse. 80 PLUS Platinum効率(94%の目安)。https://www.belfuse.com/resource-library/tech-paper/80-plus-why-you-need-titanium-power-supplies-in-your-data-center#:~:text=80%20PLUS%20Platinum%20%20,%7C%2094
  6. HPE Community Japan. 進むサステナブルIT活用:SPECpowerやSERT等のベンチマークの位置づけ。https://community.hpe.com/t5/hpe-blog-japan/%E9%80%B2%E3%82%80%E3%82%B5%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%8A%E3%83%96%E3%83%ABit%E6%B4%BB%E7%94%A8-ai%E6%99%AE%E5%8F%8A%E3%81%AB%E5%90%91%E3%81%91%E3%81%9F%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%BC%E3%81%AE%E7%9C%81%E3%82%A8%E3%83%8D%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC%E5%AF%BE%E7%AD%96/ba/p/7230308
  7. CNBC TV18. ChatGPT uses 10x more power than Google searches, says Goldman Sachs. https://www.cnbctv18.com/technology/chatgpt-uses-10-times-more-power-than-google-searches-says-goldman-sachs-19435551.htm