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直感的なUIで実現する業務効率化:新時代のWebシステム開発

Kotaro Takada
リニューアルしたCLYRのホームページ

はじめに

業務システムの開発では、これまで一貫して「使いやすさ(UI/UX)」が課題でした。一方で、直感的なユーザーインターフェース(UI)をゼロから作り込むには大きなコストがかかり、要件を満たす機能実装を優先せざるを得ない場面が多かったのも事実です。

いま、生成AI(大規模言語モデルやコード生成ツール)の活用により、UI実装と試作(プロトタイピング)のコストが目に見えて下がっています。コンポーネントの自動生成や仕様からのモック作成、文脈に応じたテキスト/プロンプトの整形などを組み合わせることで、UI/UXを中心に据えた業務システム開発が、現実的な選択肢として検討しやすくなってきました。CTOの視点では、要件定義からユーザビリティ検証までの反復速度が上がることが、品質と納期の両立に直結します。

物流最適化システムでの実践例

この可能性を確かめるため、物流最適化(配送計画のルーティング)に焦点を当てたプロトタイプを作りました。地図を操作しながら、配送ルートの最適化や拠点配置のシミュレーションを行えるシンプルなWebアプリケーションです。

具体的には:

  • 地図上での拠点のドラッグ&ドロップ
    位置(緯度経度)を直接編集でき、制約(時間窓・容量など)の再計算を即時に促せます。
  • 配送ルートのインタラクティブな編集
    経由地の追加・削除や順序入れ替えに応じて、ヒューリスティクス(近似解法)で再評価します。
  • 最適化結果のリアルタイム表示
    総走行距離や想定時間、車両稼働率などをダッシュボードで可視化します。
  • データの視覚的な表現
    ヒートマップやクラスタリングで需要の偏りを把握し、意思決定をサポートします。

ぜひ触っていただき、理想の業務システム像を思い描く参考にしてみてください。

https://logistics-optimizer.clyr.co.jp/

技術的には、フロントエンドで地図ライブラリ(例:Mapbox GL JS/Leaflet)を用い、バックエンドでルーティングの計算に一般的な最適化ライブラリ(例:Google OR-Tools)や外部経路API(例:OpenRouteService)を組み合わせる構成が考えられます。公開されているベンチマークでも、ヒューリスティクスを用いた車両経路問題(VRP)は数秒〜数十秒程度で近似解を返すことが多く、UIの操作と相性が良い更新頻度を実現しやすいのが特長です。

例えば、容量制約付きVRPを最小限に解くコードは次のように組めます(概念例)。

# 概念例: OR-Tools による簡易VRP(容量制約)
from ortools.constraint_solver import pywrapcp, routing_enums_pb2

def create_data():
    return {
        "distance_matrix": [[0,7,9],[7,0,10],[9,10,0]],
        "demands": [0,2,3],           # 各顧客の需要
        "vehicle_capacities": [5,5],  # 各車両の容量
        "num_vehicles": 2,
        "depot": 0
    }

data = create_data()
manager = pywrapcp.RoutingIndexManager(len(data["distance_matrix"]), data["num_vehicles"], data["depot"])
routing = pywrapcp.RoutingModel(manager)

def dist(i, j):
    return data["distance_matrix"][manager.IndexToNode(i)][manager.IndexToNode(j)]
routing.SetArcCostEvaluatorOfAllVehicles(routing.RegisterTransitCallback(dist))

def demand(i):
    return data["demands"][manager.IndexToNode(i)]
demand_cb = routing.RegisterUnaryTransitCallback(demand)
routing.AddDimensionWithVehicleCapacity(demand_cb, 0, data["vehicle_capacities"], True, "Capacity")

params = pywrapcp.DefaultRoutingSearchParameters()
params.first_solution_strategy = routing_enums_pb2.FirstSolutionStrategy.PATH_CHEAPEST_ARC

solution = routing.SolveWithParameters(params)
# solution が得られればルートをUIに反映

UI側では、拠点を地図上で動かすたびにバックエンドへ計算要求を投げ、結果のルートポリラインと指標を即座に再描画します。この「編集→即反映」の往復時間を短く保つことが、実務の試行錯誤に直結する価値を生みます。

なぜWebシステムなのか

特定業務に最適化されたWebシステムは、現場の流れに合わせて操作を極限までシンプルにできます。例えば次のような利点があります。

  1. 限定された操作で高い効率を実現
    汎用UIでは複雑だった手順を、業務の文脈に合わせた最小限の操作に再設計できます。頻出タスクを1〜2クリックに集約し、ショートカットやキーボードナビゲーションを組み合わせると、操作時間の短縮が期待できます。

  2. リアルタイムなフィードバック
    入力と結果の往復を短縮し、仮説検証のサイクルを高速化します。物流最適化の例では、拠点移動や車両数の変更に対して、総距離や時間、想定コストの変化を即時に提示することで、意思決定のスピードを上げられます(リアクティブUI+インクリメンタル計算の組合せが有効)。

  3. 視覚的な理解のしやすさ
    数値の羅列だけでなく、色・形・位置で情報を表現すると理解が速くなります。地図の重ね合わせ、需要クラスタの色分け、ルートの重なりの強調など、認知負荷を下げる可視化が効果的です。

新しい可能性の広がり

生成AIの活用で、従来はコストの壁が大きかったUI実装や検証の敷居が下がりました。これは、業務アプリケーション開発のプロセスを再設計する好機でもあります。

例えば:

  • プロトタイプの素早い作成と検証
    画面仕様やユースケースからモックを自動生成し、実ユーザーの業務シナリオで早期に試せます。
  • ユーザビリティテストの迅速な実施
    シナリオベースのタスクを短いサイクルで検証し、観察結果を定量指標(タスク成功率・完了時間など)に即時反映できます。
  • フィードバックを基にした柔軟な改善
    コンポーネントの差し替えやプロンプトの調整を小さな変更で反復し、要件の変化に俊敏に対応できます。

これからのシステム開発

今後は「機能を増やす」よりも「使いやすさで成果を出す」ことに時間を割ける環境が整いつつあります。特定業務に最適化された直感的なUIは、次のような効果を狙えます。

  • 操作ミスの削減
    明示的な入力制約やコンテキストに応じたガイドで、ヒューマンエラーを抑制します。
  • 作業時間の短縮
    頻出フローを最短経路で完了できる導線設計により、1タスクあたりの所要時間を縮めます。
  • ユーザーストレスの軽減
    認知負荷(情報量・選択肢・画面遷移)を抑え、集中状態を維持しやすくします。
  • トレーニング期間の短縮
    業務の文脈に沿ったUIパターンと言語化されたヘルプにより、習熟までの学習コストを下げます。

評価軸も、機能網羅性だけでなく、SUS(System Usability Scale)やタスク成功率、平均完了時間、エラー率などのユーザビリティKPIを含めて設計するのが有効です。生成AIは、これらの指標を改善するための試作と検証の速度を底上げします。

一緒に考えませんか?

業務効率化のアイデアや、既存システムの操作性に関する課題があれば、ぜひお話を聞かせてください。生成AIを取り入れたUI/UX中心のアプローチは、これまでコスト面で難しかった「使いやすさ」を、現実的な選択肢として検討しやすくします。日々の業務に直結する価値を、いっしょに形にしていければ嬉しいです。

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