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今すぐできる採用コスト削減法

高田晃太郎
今すぐできる採用コスト削減法

統計では、採用一人あたりの平均コストは約4,700米ドル、充足までの平均時間は40日超と報告されています(SHRM, 2022)。[1] 国内でも成功報酬型エージェントの手数料は年収の30〜35%が相場で、月に2〜3名の採用でも費用は数百万円単位に達します。[2] 私の経験では、広告の無駄打ちと工程の手戻りが膨らんでいる現場ほど、工数と媒体費が雪だるま式に増え、結果として単価が高止まりします。裏返せば、仕組みの調整だけで即効性のある削減余地が広く残っているということです。各種データと公開ベンチマークを突き合わせると、媒体費の最適化、エージェント契約の再設計、ATSを活用した自動化、そしてファネルの再設計を同時に回すことで、初月から15〜20%、2〜3カ月で30%前後の削減が十分に狙えます。本稿では、CTO・エンジニアリングリーダーが今日から実行できる施策を、意思決定に必要な成果数値とともに解説します。

媒体費とエージェント費を“いま”圧縮する

最初の焦点は固定費と変動費のうち、スイッチ一つで効く領域です。求人広告はクリック単価や応募単価を追いがちですが、実際に見るべきは面談確定あたりのコスト(CPQI: Cost per Qualified Interview)です。例えば、ある求人媒体で応募単価が6,000円でも、面談に至る歩留まりが10%しかないなら、面談確定あたりの実質コストは60,000円です。別媒体の応募単価が8,000円でも歩留まりが25%なら、面談確定は32,000円で済みます。ここを月次の判断軸に置き換えるだけで、出稿配分の最適化が進み、初月から**10〜15%の媒体費圧縮が現実的になります。さらに、プログラマティック出稿で面談確定の目標単価に上限を設け、夜間・週末の高騰帯を自動で回避するだけでも、公開ベンチマークに沿った10〜30%**削減が狙えます。[3]

次にエージェント費です。新規契約の再交渉では、単純なレート引き下げ交渉よりも、条件の設計が効きます。具体的には、限定ポジションに2週間の独占期間を提供する代わりに手数料を35%→25〜28%へ引き下げる、二次面接以降の早期辞退リスクを分担する段階成功報酬にする、同一候補者の重複送客が発生した場合の減額ルールを明記する、などの設計が有効です。金額感を試算すると、年収700万円の採用で手数料率が35%→27%に下がれば、紹介料は245万円→189万円、すなわち1件あたり約56万円の差。これが年間10件なら約560万円の圧縮余地になります。母集団の質を落とさず削減できるように紹介のミスマッチ率を下げることとセットで進めるのが近道です。

CPQA/CPQIを基準通貨にする

媒体同士、エージェントと媒体の横比較には、応募単価ではなく一次面談確定あたりのコストを“通貨”にするのがポイントです。ここで併せて使いたいのがCPQA(Cost per Qualified Applicant)です。CPQAは「応募資格(必須要件)を満たす応募者1名あたりのコスト」、CPQIは「一次面談確定1件あたりのコスト」。母集団形成の段階でスクリーニングが甘いと、面談確定に至るまでの無駄打ちが増えます。ATSでノックアウト条件を設定し、JDの必須要件を応募フォームに反映するだけで、一次面談率が1.5〜2倍に上がり、結果としてCPQIが下がります。[4] 出稿停止ラインや上限単価もCPQIでルール化すると、現場判断が高速化します。

リファラルは“仕組み”で即効化する

紹介経由は一般公募よりも入社率と定着率が高いことが、複数の調査で示されています。[5] 問題は立ち上がり速度です。ここは制度設計で前倒しできます。入社時の一時金だけでなく、書類通過時内定承諾時の二段階インセンティブにする、推薦をワンクリックで送れる専用フォームを社内Slackに常設する、推薦文テンプレートを配布して心理的負担を下げる、といった工夫で立ち上がりが一気に早まります。金額感の目安として、従業員100名規模で月の入社が2名、うちリファラル比率が10%→25%に上がると仮定すると、四半期あたりエージェント経由の決定が1〜2件減り、成功報酬(年収600万円×手数料25%なら1件150万円)分の外部支出が圧縮されます。設計のポイントは営業と同じように“案件化”を回すことです。

ファネルを“歩留まり”から逆算して削る

採用はマーケティングと同じで、最も高コストなのは上流の無駄です。成果数値を段階ごとに分解し、不要な通過をそもそも発生させないことがコスト削減の最短ルートになります。たとえば現状が、応募→書類通過20%、一次面談通過50%、技術課題通過40%、最終承諾60%だとします。このとき、採用一名あたり必要な応募数は約42件です。JDの必須要件を2つに絞り明文化し、Nice to haveを“歓迎”欄に退避、技術課題は一次面談前のミニスクリーニングに置換、最終面接と意思決定者面談を統合すると、一般に通過率は書類30%、一次60%、課題50%、承諾65%程度まで改善が見込めます。必要応募数は約17件まで縮み、媒体費と人的工数の両方が直撃で減ります。

JDの“誰のための一枚か”を決め切る

応募数を増やすことと、採用決定を早めることは必ずしも一致しません。JDは“最大公約数”ではなく“明確なペルソナ”の一枚に絞ると、通過率が上がります。技術栈の必須・歓迎を言語化し、業務の成功条件を冒頭に配置し、評価基準を面接と同じ軸で書く。これだけで書類通過率は1.3〜1.8倍、一次の満足度も上がります。重要なのは面接設計と同じラベルを使うことです。ラベルが揃うと、面談後の議論と意思決定が高速化し、辞退リスクを減らせます。

選考段数を短縮し、日程調整の遅延を断つ

段数の多さと日程調整の遅延は、直接的にコストに跳ねます。候補者の離脱は待機時間が数営業日を越えると急増し、歩留まりは目に見えて落ちます。ここに対しては、カルチャーフィットと技術評価の一体化、意思決定者の同席、そして面談枠の“先出し”が効きます。面談枠をATS上で先に開放しておき、候補者が自動で最短の枠に入る設計にすると、調整の往復が消えます。結果として、同じ採用数でも媒体費は減り、エージェント経由の機会損失も縮小します。

ATSと自動化で“面談まで”の工数を半減する

実は、外部費用に次ぐ大きなコストは人的工数です。エンジニアが採用面談に割く時間は、開発ボードのスループットに直結します。ATSのオートメーションと軽いスクリプト連携だけで、一次面談までの工数を**30〜50%**削減できるケースは珍しくありません。[4] 実務では、応募受付→ノックアウト→日程調整→事前質問→通知という流れを、自動メールとWebフォーム、そしてSlack連携でつなぐのが王道です。

ノックアウトと事前質問で“会う前に”質を上げる

書類選考時に、必須技術の実務経験年数、希望年収の範囲、就業可否時期などの必須項目を設け、基準未満は自動で辞退通知する。通過者には技術ミニ課題やGitHub/ポートフォリオ提出を依頼し、回答はATSに自動格納する。これにより、一次面談の密度が上がり、面談数自体を減らしても決定数は維持できます。試算として、ミニ課題の導入で一次面談数を月40件→24件に抑え、1件あたりの所要を「60分×面接官2名+準備/FB30分=2.5時間」と置くと、面談分だけで約40時間の削減。スクリーニングと書類対応の圧縮を含めれば月50〜80時間、関与エンジニアの時間単価を8,000円/時と置くと40〜64万円相当の節約になります。

日程調整は“人がやらない”が正解

候補者が自分で空き枠を選べるようにするだけで、メール往復が消え、タイムラグ起因の辞退も減ります。ATSの標準機能か、外部のスケジューラーを連携し、Googleカレンダーの空き時間とZoom/Meetの会議URLを自動発行する設計が最短です。通知はSlackの専用チャンネルに集約し、採用チームと面接官の反応速度を上げる。定量効果の目安として、調整1往復あたり10分×3名=30分が削減されると仮定すると、月100件の調整で約50時間の節約。上流の待機時間が縮めば、一次辞退率の低下と媒体費の最適化にそのまま跳ね返ります。仕組み化は一度やれば維持コストが低いので、ROIが出やすい領域です。

“今日から”の内製テクニックで数値を動かす

外部費の削減と同時に、内製側の摩擦を減らすことで短期間の数値改善が見込めます。まず、採用LPと求人票の冒頭300文字を見直し、ポジションのミッション、成功条件、評価タイムラインを具体的に書き切ります。抽象的なカッコよさより、オンボーディング90日で評価される行動と成果を明示したほうが、応募の自己選別が働きます。次に、カジュアル面談のスロットを平日夜と土曜午前に拡張し、面談の最短着地をつくります。技術面談官は“質問リスト”ではなく“評価基準”の共有にフォーカスし、会話の粒度を揃えると、合否判断のブレが減り再面談が消えます。さらに、給与レンジと等級テーブルを求人票に明記し、レンジ内の裁量余地を事前に伝えると、内定後の逆転辞退が目に見えて減ります。これらはどれもコストをかけずに今すぐ変えられる設計の話で、翌週のダッシュボードに数字が表れます。

短期の成果を可視化するために、ダッシュボードのKPIはCPQI、一次辞退率、日程調整リードタイム、内定承諾率に絞るのが有効です。全体のコストパー採用は遅行指標なので、先行指標を2週間スプリントで改善し、月末に累積効果を振り返る。モデルケースの試算では、この運用に切り替えてから2カ月で、媒体費**▲10〜20%、エージェント比率▲10pt前後**、工数**▲30%、最終的な採用単価▲20〜30%**に到達するシナリオが現実的です。数字で語り、数字で回す。このシンプルな原則が、採用における最短のコスト削減を連れてきます。

まとめ:数字で意思決定し、仕組みで“節約を継続”する

採用コストは、媒体費とエージェント費、そして人的工数の三位一体で決まります。今日から着手できるのは、面談確定あたりのコストを基準通貨にする、エージェント契約を成果に寄せて再設計する、ATSの自動化で一次面談までの摩擦を削る、そしてJDと選考設計を同じラベルで統一することです。これらを並行して回すだけで、初月15〜20%、四半期で**30%**前後の削減が十分に狙えます。

あなたの採用ダッシュボードで、まずどの数字から動かしますか。最短で効くのは往々にして“仕組みの継ぎ目”です。今週のスプリントで、CPQIの上限設定、日程調整の自動化、JD冒頭の書き直しのいずれか一つを実行に移してください。ひとつの数字が動けば、連鎖して全体のコストが軽くなります。難しいことは要りません。数字で意思決定し、仕組みで継続する。その繰り返しが、次のオファーをより速く、より安く、そしてより納得度高く届けてくれます。

参考文献

  1. SHRM. The Real Costs of Recruitment. https://www.shrm.org/mena/topics-tools/news/talent-acquisition/real-costs-recruitment
  2. アスコープ労働問題ニュース. 人材紹介の手数料の相場は? https://roudou.ascope.net/column/other/1128/
  3. Recruiting News Network. How programmatic recruitment advertising saves money. https://www.recruitingnewsnetwork.com/posts/how-programmatic-recruitment-advertising-saves-money
  4. TalentLyft. How does ATS affect time, cost savings and team productivity? https://www.talentlyft.com/en/blog/article/431/how-does-ats-affect-time-cost-savings-and-team-productivity
  5. Lever. Talent Benchmarks Report. https://www.lever.co/reports/talent-benchmarks/