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コンテンツ重視のサイト改修で問い合わせ数が倍増した話

高田晃太郎
コンテンツ重視のサイト改修で問い合わせ数が倍増した話

統計を見ると、B2Bサイトのコンバージョン(CVR: コンバージョン率)は概ね数パーセントに収まります。多くの訪問は接点形成に至らず、ユーザーは短い滞在時間で「ここに自分の答えがあるか」を判断します。Nielsenらの研究でも、最初の数秒で価値仮説を立て、裏づけが弱いとスクロールをやめる傾向が示されています。検索経由の非指名流入が多いほど、この数秒の勝負に左右されやすいのですが、実務で効いたのは派手な機能よりも、結局は「言葉と構造」でした。業界の公開事例を見ても、流入や広告費を変えずにコンテンツを軸とした情報設計と実装を見直すだけで、反応が大きく伸びるケースは少なくありません。本稿では、何を変え、なぜ効くのかを、技術と運用の両面から整理します。¹²³⁴⁵

何を変えたか――機能ではなく「語り方」

起点は、機能の足し算ではなく価値提案の再定義です。ヒーローエリアのスライダーをやめ、誰に何をどのような成果として提供するのかを一文で言い切る構成に変えます。製品の特徴羅列ではなく、意思決定者の仕事がどう楽になるかという結果にフォーカスし、検討の障壁になっていた専門用語を排し、社内の言い回しではなく顧客の言葉で説明します。ナビゲーションは組織図の写しではなくタスク起点に改め、導線の終点には一般的な「お問い合わせ」ではなく、相手の行動を具体化するマイクロコピーを置きます。例えば「要件の共有を3分で開始」は、行動の単位と期待所要時間を明示し、心理的なコスト見積もりを下げます。⁶⁵

このような「語り方」の調整は、同一セッション数でも反応率の底上げにつながることが多く、商談化の質にも波及します。業界事例では、明確な価値提案と行動の具体化により、コンバージョンが大きく伸びた報告が複数ありますが、いずれも見た目の刷新ではなく、意味の設計を変えたことが要因とされています。⁵⁶⁷

KPI設計とベースライン

着手前にKPIを固定し、ベースラインの取得期間を最低4週間確保します。主要KPIはフォーム完了CVRと、スパム除外後の有効問い合わせ率。補助指標としてトップタスク到達率、主要セクションのスクロール完了率、ファースト入力時間(フォームへの最初の入力までの時間)を追います。計測はGA4のイベントとサーバーログの併用で、フォームPOST後にサーバーサイドでイベントを確定させることで重複送信やアドブロックの影響を緩和します。これにより、改修後の変化がコンテンツ起因か流入起因かを判別しやすくなります。なお、MQL(Marketing Qualified Lead: マーケが定義した基準を満たす見込み客)やSQL(Sales Qualified Lead: 営業が商談化可能と判断した見込み客)といったファネル指標も、定義をチームで共有しておくと比較がぶれません。

コンテンツ監査で見えたボトルネック

全ページを「目的」「主語」「証拠」「次の一手」という観点で監査すると、主語が自社になっている箇所が多く、成果の証拠が画像キャプチャに偏っていることがよくあります。これでは初見の読者にとって、実力の判断材料が不足します。各ページに必ず定量・定性的な裏付けと、意思決定に関わる具体事項、例えば導入までの目安期間や役割分担、最低限の前提条件を明記します。これだけでも、初回接触時に繰り返し説明していた共通質問が減り、以降のコミュニケーションが前に進みやすくなります。

情報設計とUXライティングの再設計

情報設計はクエリ意図とジョブ理論(顧客が達成したい「仕事」に紐づけて価値を設計する考え方)を足場に、問題―解決―証拠―行動の順で統一します。検索からの流入が多いページでは、冒頭で問題の定義に読者の言葉を用い、次に短い解決ストーリーを提示し、直後に裏付けとしての事例や数値を置きます。長い前置きや抽象的なビジョンはファーストビューから退け、読者が知りたい順に配置します。また、反論への先回りとして、価格のレンジ、対応できない領域、必要なリソースなどのネガティブ情報も隠さず提示します。迷いを減らすことが結果としてリードの質を上げます。⁶

FAQは単なるテキストではなく検索エンジンにも理解される形に構造化します。これにより、検討初期の疑問に検索結果上で先回りでき、無駄な直帰を減らせます。構造化データは運用コストを抑えるためにCMS側でスキーマを選択式にし、プレビュー段階でバリデーションを通す仕組みにします。以下は例です(内容は例示であり、実際の期間・費用はサービスにより異なります)。

FAQの構造化データ例

{
  "@context": "https://schema.org",
  "@type": "FAQPage",
  "mainEntity": [{
    "@type": "Question",
    "name": "導入までの期間はどのくらいですか?",
    "acceptedAnswer": {
      "@type": "Answer",
      "text": "要件確定から数週間程度が目安です。データ連携を含む場合は追加の期間が必要になることがあります。"
    }
  }, {
    "@type": "Question",
    "name": "最小構成の費用感は?",
    "acceptedAnswer": {
      "@type": "Answer",
      "text": "費用はスコープにより変動します。概算の価格表と前提条件をページ内に公開しています。"
    }
  }]
}

証拠の置き場所を変える

事例や数値はページ末尾に集約せず、主張の直後に置きます。例えば「デプロイ時間が短縮できる」と述べたすぐ下に、測定方法、前提条件、再現性の注意を添えます。第三者のレビューや監査結果がある場合は、出典と日付を明記します。これにより、読む人が自分の文脈に当てはまるかを即座に判断できます。⁷

技術実装――速く、追跡でき、運用できる

コンテンツの効きを最大化するため、配信と計測の基盤も見直します。ビルド時に安定しているページは静的化し、更新頻度が高い領域は増分再生成で反映を早めます。CDNのエッジでHTMLを短くキャッシュし、APIレスポンスはキーに認証情報やパラメータを含めてグローバル配信します。画像は次世代フォーマットで提供し、実寸に合わせて自動リサイズ、CLSを防ぐために縦横比を予約します。こうした施策は、Core Web Vitals(LCP: 最も大きなコンテンツの表示、CLS: レイアウトのずれ、INP: 応答性)を押し上げ、特にモバイルでの離脱抑制に効きます。公表事例でも、最適化によりLCPが大幅に改善した例が報告されています。⁸

計測はクライアントとサーバーの二重化で堅牢にします。フォーム送信はサーバーで確定イベントを発火し、クライアント側は補助的位置づけにします。広告の影響評価はUTMをセッション開始時に保存し、問い合わせ時点で値を付与してCRMに渡します。これにより、コンテンツ改修の寄与をチャネルミックスから切り分けられます。

GA4のイベント送信(クライアント補助)

<script async src="https://www.googletagmanager.com/gtag/js?id=G-XXXXXXX"></script>
<script>
  window.dataLayer = window.dataLayer || [];
  function gtag(){dataLayer.push(arguments);} 
  gtag('js', new Date());
  gtag('config', 'G-XXXXXXX');
  function trackLeadSubmitted(formId){
    gtag('event', 'lead_submit', {
      form_id: formId,
      value: 1,
      send_to: 'G-XXXXXXX'
    });
  }
</script>

スパム対策はユーザー体験を損ねない範囲で、不可視のハニーポットとタイムスタンプ検証を併用します。短時間での連投はサーバー側で抑止し、抑止時もユーザーにエラーを見せず静かに受理せず、計測にもカウントしません。これにより、改修後に増えがちな無効送信を抑え、実数の把握が正確になります。

成果と再現性――どこに倍率が宿ったか

反応が伸びる主因は、価値の明確化、反論の先回り、そして行動コストの見える化にあります。価値の明確化とは、具体的な成果と条件を一文で言い切ること。反論の先回りとは、価格や適用外のケースをあらかじめ提示し、合わない読者を早く離脱させ、合う読者の不安を解くこと。行動コストの見える化とは、次の一歩に必要な時間と情報を明記し、面倒さの想像を減らすこと。これらの改修は相互に作用し、CVRの上昇だけでなく、営業の工数配分の最適化にも寄与します。重要なのは、広告費や流入の規模を変えずとも、語り方と構造で改善余地は大きいという事実です。⁶

運用面では、公開後の数週間から数カ月で効果が確認されることが多く、その後は安定軌道に乗ります。検索クエリの変化に応じて見出しやFAQを微修正し、ランディングページではメッセージの順序を小さく入れ替えるテストを継続します。大きなリニューアルを繰り返すのではなく、コンテンツを単位にした漸進的な改善を積み重ねる方が、結果的にコスト効率は高くなります。⁷

チーム体制と意思決定の速度

デザイン、フロントエンド、UXライティング、営業の4者が週次で小さな仮説を回す体制にし、レビューは最小人数で即日完了させます。承認プロセスを短くするため、メッセージの核となる仮説だけを先に合意し、表現の細部は公開後に実データで最適化します。意思決定の速度自体が成果に寄与するため、体制設計もまた改修の一部と捉えます。

まとめ――まず言葉、ついで速度、ずっと計測

成果の倍率を決めるのは、機能の多さよりも、誰にどんな結果を約束できるかを明確に語れるかどうかです。価値を一文で言い切り、証拠を直後に添え、行動の負荷を見える化する。これだけでも、既存トラフィックから得られるリードは増やせます。技術実装はその効果を減衰させないための基盤であり、配信の速さと計測の確かさが筋の良い学習ループを生みます。⁴⁵⁸

もし今日から一歩進めるなら、ヒーローの一文を顧客の言葉で書き換え、該当する証拠をすぐ下に置き、次の一手のコピーを具体化してみてください。数週間の観測で手応えが得られたら、FAQの構造化、フォームの微修正、パフォーマンスの底上げへと広げていくのが現実的です。大規模な改修を待たずとも、明日変えられる単位はたくさんあります。あなたのサイトで、最初に言い切るべき一文は何でしょうか。そこで約束する結果は、どの証拠で裏づけられるでしょうか。考え、書き、測る。その繰り返しが、反応の質と量を確かに変えていきます。

参考文献

  1. Katie Rigby. Updated 2023: Average Conversion Rate by Industry and Marketing Source. Ruler Analytics, 2023. https://www.ruleranalytics.com/blog/insight/conversion-rate-by-industry/
  2. Lead Forensics. What Is a Good Conversion Rate for B2B Websites? n.d. https://www.leadforensics.com/blog/cro/what-is-a-good-conversion-rate-for-b2b-websites/
  3. Webfirm. How Users Read On The Web (Nielsen, 2008) — summary. 2008. https://www.webfirm.com/blog/content-around-user-habits/
  4. WordStream. 5 Proven Formulas for High-Converting Landing Page Headlines. 2016. https://www.wordstream.com/blog/ws/2016/06/20/landing-page-headline-formulas
  5. CXL. Microcopy: Tiny Words That Make A Huge Impact On Conversions. 2019. https://cxl.com/blog/microcopy/
  6. Invesp CRO (Khalid Saleh). Increase Conversions with a Killer Value Proposition: a 90% Increase in Conversions. 2024. https://www.invespcro.com/blog/increasing-conversion-rate-through-value-proposition/
  7. David Kirkpatrick. Website Marketing: Complete website redesign increases conversion 470%. MarketingSherpa, 2015. https://www.marketingsherpa.com/article/case-study/website-marketing-increased-conversion
  8. web.dev (via scien.cx). NDTV achieved a 55% improvement in LCP by optimizing for Core Web Vitals. 2020. https://www.scien.cx/2020/10/27/ndtv-achieved-a-55-improvement-in-lcp-by-optimizing-for-core-web-vitals/