すぐできる!Excelの便利機能10選

Excelの関数は現在500種類以上といわれますが¹、日々の業務を動かすうえで本当に効くのは、ごく限られた機能です。現場のヒアリングや公開事例を見ると、週次レポート作成のような定型作業は、Excelの設定や関数の使い方を10項目ほど見直すだけで所要時間が数分の1になることが珍しくありません。コードを書かず、既存シートを壊さず、それでも確実に速くなる。この記事では、即日導入できて効果が数値で語りやすい10の機能を、導入時の勘所とともに整理します。すべてMicrosoft 365(最新のExcel)を前提にしつつ、Excel 2019/2021での対応や代替手段がある場合は併記します。
入力・整形のムダを消す:まずは手を早くする
フラッシュフィル(Ctrl+E)で“例示”から一括整形
列の先頭に望む結果を1〜2行だけ手入力し、Ctrl+Eを押すだけで残りの行を推測して一括整形できるのがフラッシュフィルです²。氏名から姓・名を分割したり、電話番号からハイフンを除去したりといったパターン抽出が、式なしで完了します。1000行のデータで手作業の置換や関数設計に5〜8分かけていたケースが、30〜60秒程度に短縮できることが珍しくありません。規則性が曖昧だと誤推定が混じるため、結果列の先頭〜末尾をサンプリングして検算する運用をセットにすると品質が安定します。(対応バージョン目安:Excel 2013以降で利用可能)
TEXTSPLITで区切り文字から自在に分割
区切り文字が明確なデータなら、 =TEXTSPLIT(A2, ",")
のように書くだけで複数列へ自動分割できます³。APIログのパラメータや「氏名 役職 部署」のような半角スペース区切りにも有効です。従来の FIND
+MID
の組み合わせより式が短く、保守時間の削減につながります。なお、TEXTSPLIT/TEXTBEFORE/TEXTAFTERはMicrosoft 365で提供され、Excel 2019/2021ではPower Queryでの代替が有効です⁴。Excel 2019では「区切り位置指定ウィザード(テキストを列に)」でも近い結果を得られます。
XLOOKUPで参照を堅牢化(VLOOKUPの置換)
キー列の左側・右側どちらからでも引け、列番号のズレにも強いのがXLOOKUPです⁵。典型例は =XLOOKUP(E2, 売上!A:A, 売上!H:H, "NA", 0)
のように完全一致で引く形です。参照範囲の列順入れ替えに壊れず、エラー処理も引数で完結します。VLOOKUPで列番号をハードコードしていたシートをXLOOKUPへ移行すると、列追加や順番変更に伴う修正が不要になり、運用障害の減少が期待できます。件数が大きい場合は範囲を列全体ではなく、 $A$2:$A$50000
のように絞ると再計算が安定します。(バージョン補足:XLOOKUPはMicrosoft 365およびExcel 2021で利用可能。Excel 2019では =INDEX(売上!H:H, MATCH(E2, 売上!A:A, 0))
のようにINDEX+MATCHで代替)
集計・可視化をノーコードで自動化する
FILTERで“絞り込みビュー”を数式化
抽出条件を固定化したいなら、オートフィルタより =FILTER(明細!A:H, 明細!C:C="東日本")
のように数式化するのが効率的です。権限で見せる列を切り替える場合にも便利で、ビュー用シートを用途別に作っておけば、担当者がフィルタを手で掛け替える手間を排除できます。週次の抽出・並べ替え・貼り付けを繰り返していた運用は、1回の仕込みで毎週10〜15分の節約につながりました。なおFILTERはMicrosoft 365およびExcel 2021で利用可能で、Excel 2019では「詳細設定フィルター」やPower Queryによるクエリ化が実用的です。
ピボットテーブル+スライサーで“捨てない可視化”
明細は捨てず、ピボットテーブルで軸・値・フィルタを組み立て、スライサーで日付やエリアをクリック切り替えできるようにすると、意思決定の会議が速くなります。集計式の海を作るより、ピボットに寄せたほうが列追加やデータ増にも強く、列数・行数の爆増時でも壊れにくいのが利点です。タイムラインスライサーを足すと、四半期・月・週の粒度切替が直感的になります。(対応バージョン目安:ピボットとスライサーは広く利用可能。タイムラインスライサーは近年のバージョンでサポート)
Power QueryでETLを“記録”に変える
外部CSVやSaaSエクスポートの取り込み、不要列の削除、列の分割・結合、データ型の整形までをGUIで記録し、更新ボタン1つで再実行できるのがPower Queryです。Excel 2016以降に標準搭載されており⁴、出所が異なる複数CSVの縦結合や、月次フォルダ内のファイル自動取り込みなどもフォルダー接続で安定します⁶。初回30〜60分の投資で以後は更新に数十秒という運用に切り替えられます。
数式の保守性と再現性を高め、壊れないシートへ
LETで“名付けて再利用”し、重複計算を削減
長い式の一部を変数名に束ねて再利用できるのがLETです⁷。例えば同じ範囲の合計やフィルタ条件を式内で何度も評価しているなら、 =LET(rng, 明細!H2:H50000, 有効, 明細!D2:D50000="確定", SUM(FILTER(rng, 有効)))
のように書き直すと読みやすさが向上し、再計算負荷も下がります。複雑な集計式の編集時間が短くなり、レビュー効率の改善も見込めます。(バージョン補足:LETはMicrosoft 365およびExcel 2021で利用可能。Excel 2019ではヘルパー列や名前付き範囲で可読性を確保するのが現実解)
LAMBDAで“関数化”し、組織の標準ロジックに
部門ごとの独自ロジック(例:売上区分の正規化や閾値判定)をLAMBDAで関数化すれば、ブック内どこからでも同じ仕様で呼び出せます⁸。例えば電話番号の正規化は、以下のように関数を作ると明快です。
=LAMBDA(x, LET(t, TEXTJOIN("",,FILTER(MID(x, SEQUENCE(LEN(x)),1), ISNUMBER(--MID(x, SEQUENCE(LEN(x)),1)))),
IF(LEFT(t,1)="0", t, "0"&t)))
作った関数に名前を付けて保存すれば、 =TELNORMALIZE(A2)
のように呼び出せます。仕様変更が発生しても定義を1箇所変えるだけで全シートに反映され、修正漏れによる不整合を実感レベルでゼロに近づけられます。(バージョン補足:LAMBDAはMicrosoft 365で提供。Excel 2019/2021ではVBAのユーザー定義関数やPower Queryのカスタム関数が代替策)
データ検証で“入る前に守る”
誤入力は後段の関数・集計を壊します。プルダウンや日付の範囲制限、依存リストをデータ検証で先回り設定すると、ミスの流入自体を抑制できます⁹。たとえば部門コードはマスターの命名範囲からのみ選択させ、未登録値はエラーで拒否する。これだけで後続のXLOOKUPのエラー率が下がり、チェック時間が毎週数分〜十数分削減されます。(対応バージョン目安:主要バージョンで利用可能)
チームでスケールさせる:自動化と配布の設計
Office Scripts+Power Automateで“押さない更新”
Excel on the webでは操作の記録からTypeScriptコードを生成でき、Power Automateとつなげばスケジュールやイベントで自動実行できます¹⁰。典型的には「SharePointに新しいCSVが置かれたら、Power Queryを更新し、ピボットをリフレッシュし、集計シートをPDFにしてTeamsへ投稿」までを無人化します。週次レポートで手動更新・保存・送付に計20分かかる運用でも、初回の構築以後は実行を自動化できるケースが報告されています。以下はテーブルの更新と保存を行う最小例です。
function main(workbook: ExcelScript.Workbook) {
const sht = workbook.getWorksheet("明細");
sht.getTables().forEach(t => t.refresh());
workbook.refreshAllDataConnections();
workbook.getApplication().calculate(ExcelScript.CalculationType.full);
workbook.save();
}
配布形態はSharePoint/OneDrive上のブックを単一ソースにし、閲覧者は常に最新を参照する方式が安全です。ローカル複製はガバナンスの盲点になりやすいため避けます。(バージョン補足:Office ScriptsはExcel for the webで提供。デスクトップ版のみの環境ではVBAやPower Automate Desktopが選択肢)
動的配列の前提で“増える行”に強くする
FILTERやTEXTSPLITのような動的配列関数は、出力範囲がデータ増に応じて自動で広がります。従来のコピーフィルでは見落としや貼り付け漏れが起きがちでしたが、この仕組みなら新規行にも自然に波及します。レイアウト上の都合で値だけを固定したい場所は、 =IFERROR(INDIRECT(…))
のような回避策ではなく、レポート用の別シートにスピル結果を参照する形に分離すると、循環参照や壊れを避けつつ保守性を確保できます。動的配列を軸に組み直すだけで、月次増分対応の修正時間が大きく減少したケースが目立ちます。(バージョン補足:動的配列はMicrosoft 365およびExcel 2021で提供。Excel 2019ではテーブルの構造化参照+ヘルパー列やCSE配列数式で運用するのが現実的)
参照設計と命名で“読めるシート”を組織標準に
列全体参照は開発中の試行には便利ですが、本番運用では行範囲を適切に制限し、表は必ずテーブル化(Ctrl+T)します。テーブル名・列名で参照すれば、挿入・削除にも壊れません。加えて、 設定
シートを設けて期間・しきい値・ファイルパスを集約し、可視セルに説明を書いておくと属人性が下がります。レビューする側も「どのセルがどのロジックに影響するか」を素早く把握でき、引き継ぎコストが大きく縮みます。XLOOKUPやLETで参照を名前に寄せる設計は、技術負債の肥大化を抑える有効打です。(バージョン補足:テーブルと構造化参照は主要バージョンで利用可能)
まとめ:10の即効ワザを、今日のワークフローに
手戻りの多い整形や、毎週の同じ抽出作業は、今日紹介した10機能で大半が置き換えられます。まずはフラッシュフィルとTEXTSPLITで入力を速くし、XLOOKUPで参照の壊れにくさを確保してください。次にFILTERとピボットで見たいビューを数式化し、取り込みはPower Queryで記録に変える。保守はLETとLAMBDAで短く読みやすくし、品質はデータ検証で入口を固める。最後にOffice Scriptsで押さない更新へ移行すれば、週次の定型は高い再現性で自動化できます。どれから始めるか迷うなら、最も面倒なレポート1本を対象に、現状の手順と所要時間を計測し、上記の順で置き換えてみてください。1本を完遂すれば、横展開の再現性が見えてきます。次に読むなら、Power Queryの基礎やショートカット集などの内部リソースをチームにシェアし、共通言語を作るところから始めましょう。
参考文献
- Impress できるネット. Excelの関数一覧(全510関数). https://dekiru.impress.co.jp/article/4429/
- Microsoft サポート. Excel でフラッシュ フィルを使用する. https://support.microsoft.com/ja-jp/office/excel-でフラッシュ-フィルを使用する-3f9bcf1e-db93-4890-94a0-1578341f73f7
- Microsoft サポート. TEXTSPLIT 関数. https://support.microsoft.com/ja-jp/office/textsplit-%E9%96%A2%E6%95%B0-b1ca414e-4c21-4ca0-b1b7-bdecace8a6e7
- Microsoft 365 公式ブログ. Integrating Power Query technology in Excel 2016. https://www.microsoft.com/en-us/microsoft-365/blog/2015/09/10/integrating-power-query-technology-in-excel-2016/
- Microsoft サポート. XLOOKUP 関数. https://support.microsoft.com/ja-jp/office/xlookup-%E9%96%A2%E6%95%B0-b7fd680e-6d10-43e6-84f9-88eae8bf5929
- Microsoft サポート. フォルダーからデータをインポートする(Power Query). https://support.microsoft.com/ja-jp/office/%E8%A4%87%E6%95%B0%E3%81%AE%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%92%E5%90%AB%E3%82%80%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%AB%E3%83%80%E3%83%BC%E3%81%8B%E3%82%89%E3%83%87%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%82%92%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%88%E3%81%99%E3%82%8B-power-query-94b8023c-2e66-4f6b-8c78-6a00041c90e4
- Microsoft サポート. LET 関数. https://support.microsoft.com/ja-jp/office/let-%E9%96%A2%E6%95%B0-34842dd8-b92b-4d3f-b325-b8b8f9908999
- Microsoft サポート. LAMBDA 関数. https://support.microsoft.com/ja-jp/office/lambda-%E9%96%A2%E6%95%B0-bd212d27-1cd1-4321-a34a-ccbf254b8b67
- Microsoft サポート. セルにデータの入力規則を適用する. https://support.microsoft.com/ja-jp/office/%E3%82%BB%E3%83%AB%E3%81%AB%E3%83%87%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%81%AE%E5%85%A5%E5%8A%9B%E8%A6%8F%E5%89%87%E3%82%92%E9%81%A9%E7%94%A8%E3%81%99%E3%82%8B-29fecbcc-d1b9-42c1-9d76-eff3ce5f7249
- Microsoft Tech Community. Office Scripts is now generally available in Excel for the web. https://techcommunity.microsoft.com/t5/excel-blog/office-scripts-is-now-generally-available-in-excel-for-the-web/bc-p/2391173